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第11回:糖尿病のお話(上)
( 2003年10月15日 掲載 )
■糖尿病とは
 日本には糖尿病の患者さんが800万人、予備軍を入れると1500万人の患者さんがいると推定されています。昭和30年代まではほとんど見られませんでしたが、戦後の食べ過ぎ、太りすぎにより急速に増えてきています。糖尿病は、尿に糖が出る病気と書きますが、その本態は、血液中のブドウ糖の濃度(血糖値)が高くなり、血管が傷害を受ける病気です。はじめは症状がなく、痛くも痒くもありませんが、放置すると、目、神経、腎臓など、体の色々な臓器が障害を受けます。これを糖尿病の合併症と呼びます。合併症が進むと、眼底出血を起こして失明したり、壊疽(えそ)といって足が腐って切断をしたり、また腎障害や感染により死亡にも至ることもあります。

 私たちのエネルギーの元となる栄養素、ブドウ糖は、膵臓から分泌されるインスリンというホルモンの働きによって、血液中から細胞の中に取り込まれ、利用されます。糖尿病は、このインスリンの働きが不足することによって起こってきます。小児の糖尿病の多くは、ウィルスなどが原因となって膵臓が傷害され、インスリンが足りなくなって発症します。成人に多い糖尿病は、食べ過ぎ、太り過ぎが元で、栄養とインスリンのバランスがくずれて起きます。

 特に、成人で起きる糖尿病は、生活習慣によって引き起こされるので、高血圧、高脂血症、痛風・高尿酸血症などと共に生活習慣病と呼ばれています。ですから、糖尿病の治療の一番は悪い生活習慣をかえる、食事療法、運動療法です。食事療法といっても、特別の食事ではなく、食べ過ぎをやめて、生活と仕事に必要なバランスのとれた、健康的な食生活をするということです。

 このほかに、糖尿病の治療としては、内服薬をのんだり、インスリンを注射したりすることがあります。いずれにしても、糖尿病は、残念ながら、治療すれば治ると言う病気ではありません。食事も薬も注射も、合併症を予防するためにおこなうのですから、気長に続けなければいけません。しかし、これらの治療を行い、血糖値と体重を正常に近く保てば、合併症を進行させずに、元気で長生きすることができます。

 健康診断や検査で糖尿病が見つかった場合は、放置せずに、医療機関を受診し、正しい方針に基づく治療を受けることが必要です。また、糖尿病の治療は、生活の改善が基本になりますので、体験学習入院「糖尿病教育入院」を行い、健康的な生活を身につけることが勧められます。糖尿病についての詳しいことは、糖尿病の専門の医師がいる病院でおたずね下さい。


1. 糖尿病の歴史
 糖尿病については、紀元前のギリシャ時代、ヒポクラテスの頃から記録が残っています。糖尿病Diabetes mellitus(ディアベテス・メリトゥス)の語源はギリシャ語のサイホンに由来し、尿がポンプのごとくザアザアあふれ出る状態を言います。 mellitusというのは蜜のことで、甘いおしっこがたくさん出る状態です。くみ取り屋さんが、蟻が群がるのを見て、その家に糖尿病患者がいるのを見つけるということも良く聞く話です。日本では、平安時代の「大鏡」という歴史書に、藤原道長が消渇病(しょうけちびょう)であったと書かれています。
 「口乾き、力無し、但し食は例より減ぜず。目なお見えず、二、三尺相去る人の顔見えず、いわんや前庭のことをや。思い嘆くこと千万年、・・・」
 望月の欠けたることも無き摂政関白が糖尿病になったと言うことです。食欲はうんとあるけれども、のどが渇いて疲れやすいというのは、糖尿病に特徴的な症状です。合併症が起きて、目をやられてしまったのでしょう。三尺、1メートル離れると人の顔もわからなくなってしまう。もちろん、ご自慢の庭など全然見えないということです。結局、道長は背中に癰(よう)、つまり出き物、化膿巣ができて、意識不明となり死んでしまった、多分、敗血症を起こしたのでしょう、栄華を極めた入道も悲惨な最期を遂げてしまったのです。
 時代はもう少し下がると、明治天皇も糖尿病であった様です。尿毒症で亡くなられた様ですので、腎臓の合併症を起こされたのだと思います。
 このように見てみますと、藤原道長にしても明治天皇にしても、食にことを欠かなかった人たちですね。栄養が十分とはいえなかった日本では糖尿病はそもそもまれでした。
 さて、現代ですが、それでも戦前戦後と呼ばれる昭和の前半までは糖尿病というのは、めずらしい病気でした。数千人に一人とかいう頻度です。それが、高度成長期に入って、自由に食料が得られるようになって、糖尿病はうなぎ登りに増えてきました。今や、糖尿病は10人に一人、予備軍を含めると1500万人、成人の5人に一人が糖尿病という国民病になってしまいました。日本人は元々、良い意味で粗食に耐える民族であったようです。腸も長いですし、少ない栄養を十分に利用して生きるようになっていました。その日本人の食生活が突然、欧米化し、肉食になり、エネルギーを大量に摂取するようになると、たちまち、栄養の処理が追いつかなくて、オーバーになってしまったと言うことですね。
 糖尿病の増加は乗用車の売り上げの伸びとも平行すると言われています。運動しないのに、農耕していた頃以上のカロリーをとりすぎたと言うことですね。


2.ブドウ糖とインスリン
 食事の中には、活動のエネルギーの元となる栄養素である糖質(炭水化物)、脂質(脂肪)、体を作る元になるタンパク質、それと、体の調節を行うビタミン、ミネラルなどが含まれ、それらを必要なだけ、バランスのとれた栄養をとる必要があります。

 ご飯(米飯)、パン、めん類、イモ類などの中にあるでんぷんは、胃腸で消化されると、「ブドウ糖」になります。ブドウ糖はエネルギーの元となる栄養素の中でも最も重要なものです。消化されたブドウ糖は、血液の中に吸収され、酸素やほかの栄養とともに血管の流れに沿って体の隅々まで運ばれます。私たちの体は「細胞」という小さな(1ミリの数百分の一程度の)粒が集まってできています。一人の人間の体には50から60兆個の細胞があります。その一つ一つの細胞に血管がはしり、血液が流れて酸素や栄養を運んでいます。ブドウ糖も血液の流れに沿って、細胞まで運ばれ、細胞の中に入って「燃やされて」エネルギーになったり、タンパク質や脂肪を合成する原料となって利用されます。ご飯を食べると元気が出るわけですね。

 一方、体の中のいろいろな臓器から体の調節を行うホルモンが分泌されています。お臍の後ろには胃袋があり、その後ろの背骨の前あたりに「すい臓」という臓器があります。すい臓は腸管に消化液を分泌するとともに、血液中にホルモンを分泌しています。「インスリン」という名前のホルモンで、栄養を司る重要なホルモンです。

 細胞に運ばれるブドウ糖の話に戻りますが、細胞は一つ一つが、家、部屋のようなものです。血液から細胞の中に入るには、入り口(玄関)を開けてもらわなければなりません。その入り口を開ける「門番」の役割をしているのが、インスリンというホルモンです。ブドウ糖は細胞に入って、エネルギーとなることができ、一方、血糖値が下がることになります。インスリンが栄養を司っている大切なホルモンといったのはそのわけです。
 糖尿病は、痛くもかゆくもありませんが、この大切なホルモンと栄養のバランスが崩れて起こる病気ですので、始めは自覚症状が無くても、体の中では大変なことが起こっていることになります。

 インスリンの働きが不足すると、ブドウ糖は血液から細胞の中に入ることができず、血液の中に貯まってきます。血液の糖分が濃くなる、すなわち、血糖値が高いということです。血糖が高くなると、尿の中にブドウ糖があふれてきます。これが、尿に糖が出る、尿糖陽性ということです。血糖が高くても、尿糖がでても、痛くもかゆくもない、糖尿病は始めは「症状がない」病気ですが、放置すると血管を傷害し、全身の臓器に「合併症」を起こすようになります。目が見えなくなったり、足が腐ったり、怖い病気といわれるのはそのためです。一方、ブドウ糖は細胞の中に入ってエネルギー源となることができないので、元気が出ない、疲れやすい、ということになります。

 糖尿病とか、糖尿病のなりかけ(境界型)と言われた場合は、速やかに正しい治療を行い、生活を改善し、血糖値と体重を適切に保って、恐ろしい合併症が起きないよう予防しましょう。

3.適正な体重と消費エネルギー
  現代の日本は極度のエネルギー過剰摂取状態にあります。飲み過ぎ、食べ過ぎ、太りすぎという、不健康な生活習慣の中にどっぷり浸かって、それが当たり前の状態にあります。

(1) 標準体重と1日の消費エネルギー
 成長を終えた人間は、健康な体重を維持し、一日に消費するだけのエネルギーを食べるのがちょうど良い、健康的な食生活と言うことになります。現在、日本人は平均として、男性は1日に2500kcal、女性は2300kcalを摂取しています。さて、私たちは、1日にこれだけのエネルギーを使っているのでしょうか。これは、健康的な食生活でしょうか。
 標準体重というのがあります。理想体重、健康体重とも呼ばれるものです。最も病気になりにくい体重、長生きする体重ともいえます。身長を基本にして、いくつかの計算方法がありますが、当然ですが、どの方法でも似たような値になります。簡単な方法は平田法、桂の変法と呼ばれるもので、身長(cm)から 100を引いて、0.9を掛けるものです。150cm以下の場合は100を引いた値とします。

身長と標準体重
身  長 150cm 160cm 170cm 180cm
標準体重 50kg 54kg 63kg 72kg

 Body Mass Index(BMI)という方法を用いることも良くあります。体重(kg)を身長(m)の2乗で割った値をBMIといいますが、BMIが男性では22、女性では21になるのが標準体重です。標準体重に比べ10%以上多ければ、また、BMIが25を超えていれば、太りすぎ、肥満です。
現在、日本人成人男子の3人に一人が体重過剰、太りすぎの状態にあります。

※参考:標準体重とBMI を計算してみましょう

(2) 肥満
 肥満というのは、単に容姿の問題ではありません。多くの病気を引き起こすと同時に、それ自体、やまいだれが付く病気「肥満症」です。

  BMI 肥満分類  
10%過剰 25以上 肥満I度 (生活習慣病を合併していれば肥満症)
20%過剰 30以上 肥満II度 中度肥満 ←肥満症
30%過剰 35以上 肥満III度 高度肥満

 肥満者は非肥満者に比べ、高血圧、高脂血症、糖尿病、心臓病の発症率が2倍から5倍になります。また、肥満者の中で、これらの生活習慣病を合併する割合は80%以上になります。肥満の人では病気を合併していない方が稀ということになります。

(3) 仕事と消費エネルギー
 人間の一日の消費エネルギーは、基礎代謝といって、生きているだけで消費されるエネルギー、つまり寝ていても消費されるエネルギーと、活動つまり仕事や運動などで消費されるエネルギーを足した和になります。ここから、仕事の種類から体重1kgあたりの1日の消費エネルギーを計算することが出来ます。

仕事の内容による体重1kg当たりの消費エネルギー
仕事・活動 隠居・安静 軽作業 中労作 重労働
消費エネルギー 25kcal 30kcal 35kcal 40kcal

 軽作業とは、座業が多い内勤の事務作業、手作業、精神作業を中心とする仕事をする人が相当します。中労作とは立ったり、座ったり、歩いたり、時々ものを持って運んだりという仕事で、職業でいうと店員、工員、外交員などが当たります。重労働は、一日中汗をかいて仕事をする肉体労働で、土木建設、農林漁業やスポーツ選手等がこれに該当します。しかし、最近は農業でもトラクターを運転して体を動かすことが少なかったり、外交員でも自動車で回っていてほとんど歩かない場合は、軽作業と変わらない消費エネルギーになります。ちなみに、タクシーやトラックの運転手さんの中には肥満や糖尿病が高い割合で見られます。
 これに、標準体重を掛けると、一日に摂取すべき食事のエネルギー量が求められます。160cmで標準体重が54kgの人が事務系のサラリーマンだと、 54 x 30 = 1600kcal、170cmだと1900kcalになります。これが日本人の平均的所要エネルギーですので、現在日本人がとっている2300ないし 2500kcalというのが明らかに食べすぎということがわかります。

(4) 加齢、運動不足と基礎代謝
 食べる量が増えていないので食べすぎは無い、と思っている人が多いようですが、年をとってきて、若いときと同じように食べていれば、それだけで食べすぎです。年をとると活動量が自然と減りますし、活動量が同じでも、加齢により基礎代謝が減ります。20歳と70歳では基礎代謝だけでも300kcalの減少があります。

 運動不足があると、運動による消費エネルギーが減るだけではなく、筋肉が減ることにより、基礎代謝が減ります。筋肉は基礎代謝を必要とするもっとも大きな組織です。一度運動不足になって筋肉が落ちると、前と同じように運動を始めても、一日の消費エネルギーはずっと少なくなることになります。ですから、運動によって食べ過ぎのエネルギーを使い切ろう、体重を減らそうと思っても無理な話で、食事の適正化によって食べ過ぎ太りすぎの状態から抜け出さなくてはいけません。

(下)に続く
[TEXT by 松島照彦, 筑波記念病院 代謝内分泌内科]
※執筆者の所属は、執筆当時のものです。

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