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69回:ほめることのススメ

 私の恩師である作業療法士が、海外青年協力隊の指導講師の一人としてマレーシアの片田舎に招かれた時の話です。

 講習先はマレーシアでも数少ない重症心身障害児・者施設で、そこは設備が充実し、見た目にも清潔で環境の整った施設でした。しかしその施設の奥の部屋には手足をベッド上で縛られた入所者たちが拘束されており、職員の説明によると彼等は自傷行為など、いわゆる「問題行動」を起こす入所者であるということでした。職員は、彼等の問題行動を数少ない職員で抑制し彼等自身の身の安全を守るためにも、身体拘束は仕方のない手段だと言い、そして指導講師たちに「どうしたら彼等の自傷行為を止めさせることができるのか」と相談したのでした。恩師はこう言ったそうです。

「彼等の自傷行為は止めさせることはできません。何か決定的な原因があるのならばそれを取り除くことで問題行動は治まるかもしれないが、それが見つからない以上全く無くすということは無理です。しかし、いまここで問題となっていることは、彼等が問題行動を起こす人たちだ、と関わる職員たちがレッテルを貼ってしまっていることです。レッテルを貼られた彼等は、敏感にそのことを感じ取り、それを表現するためにさらに問題行動を行ってしまうという、悪循環に陥ってしまっている。」

そしてさらに、こう職員に尋ねたそうです。

「だれか、彼等の眼を見て、手と手でふれあい、一緒に過ごすことを楽しいと感じている人はいますか?」

そこの職員たちはだれも答えることができなかったそうです。

 このようなことはマレーシアの障害者施設に限らず、世間一般にもよくある話ではないでしょうか。例えば、徘徊・妄想・弄便など問題行動の多い痴呆症の高齢者にもあてはまることでしょうし、もしかしたら「問題児」としてクラスから爪弾きにされている子どもにも言えることかもしれません。問題行動でなくても、私たちはどうしても人や物事において、目立つ問題点、短所・欠点ばかりに目が向き、どうやったらそれを無くすことができるのかばかりを考えてしまいがちです。確かにその原因をはっきりさせ、それに対処することができればいうことはありません。しかしそれができなかった場合どうしたらよいのでしょうか?

 先に紹介したエピソードのなかで私たちが教えられることは「発想の転換」ではないかと思います。「どうしても解決できないことはしょうがない、それに固執してしまうことで何か大切なことをおろそかにしてしまってはいないだろうか?もっとお互いが楽しく過ごしていくためにはどうしたらいいのだろう?」そう考えることは現状から抜け出す糸口となるのではないでしょうか。
 それを行動に移す第一歩として効果的な方法のひとつとして挙げられることが、「ほめる」ことではないかと思います。
 ほめられることはとても気持ちのいいことです。なぜ気持ちがいいかというと、ほめられるということは自分を価値ある存在だと認められるからです。一度ほめられることで、一気に自分という輪郭を感じとることができ、もっと自分を認めてもらいたいと思い、行動するようになります。
 またほめる立場から言えば、ほめることは相手を認める作業です。だからといって、ただむやみやたらにほめればいいのかというと、それは違います。お互いが気持ちよい関係を作るためには、相手と対等の立場にたち、相手が何を感じているのかや能力を正しく捉え、それを良しとして認める姿勢が大切ではないかと思います。ですから心にもないお世辞や的はずれなほめ言葉では意味がありません。

 こうすることで両者に信頼関係・コミュニケーションを築いていくことは、とても物事をスムーズに運ばせ、互いのストレスを減らしていくことができるのではないでしょうか。
相手の一面だけをみて自分と距離を置いてしまわない、もっとお互いが気持ちよく過ごすために、皆さん「ほめ上手」になりませんか?

[TEXT :阿部 あゆみ作業療法士}]

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