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◎ インフルエンザの脅威

この読み物は2002年4月に当ホームページに掲載されたものです。全体の内容について、現在の見解と大きく違う点はありません。治療薬剤のところで、当時良く使われていたアマンタジンについての記載が多くなされ、現在主流のタミフルについては小児用の剤形はまだこれからというような記述があります。しかし、その他の点については、まったく問題なく記述がされており、現在でも十分に参考になるものと思われますので、そのまま掲載を続けます。
 タミフルの濫用に対してのコメントは、最近注目の話題第9回:インフルエンザの脅威(part 2)をぜひご覧ください。

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■ インフルエンザとは

 インフルエンザは風邪の仲間と思われていますが、普通の風邪であれば、主要な症状は鼻水や咳などで、無理をすれば不愉快ではあっても普段の生活を続けることができる程であるのに対し、インフルエンザは39℃以上にもなる高熱、頭痛、関節痛、筋肉痛などの全身症状が強く、成人でも仕事を休むような重い病気です。さらに、合併症として気管支炎、肺炎、小児では中耳炎、熱性痙攀、腓腹筋炎などをおこすことがあり、高齢者や基礎疾患のある人々の冬の死亡率を押し上げる要因にもなっています。また、インフルエンザ脳症と呼ばれる重篤で悲惨な合併症を起こすこともあります。インフルエンザはいったん流行が始まると、短い間に乳児から高齢者までのあらゆる年齢層の人々が次々と罹患していくというところも一般の風邪と違うところです。

 インフルエンザウイルスはエンベロープをもつRNAウイルスです。
 インフルエンザウイルスの大きさは直径1万分の1ミリ(100nm)で、ウイルス粒子表面に赤血球凝集素(HA)とノイラミニダーゼ(NA)という糖蛋白がウニの棘のように突き出しています。ウイルスの分類に使われているH1N1などの記号はそれぞれ赤血球凝集素(H)、ノイラミニダーゼ(N)の型を表しています。赤血球凝集素はウイルスがターゲットになる細胞に接着し、侵入するときに必要な糖蛋白で、ノイラミニダーゼは、感染を受けた細胞内で新しく作られたウイルスが細胞表面から離脱してウイルス粒子として放出される時に働く糖蛋白です。

■ なぜ毎年予防接種が必要なのか?

 現在ヒトに感染をおこすインフルエンザウイルスには,A型のH1N1(Aソ連型)、H3N2(A香港型)、およびB型の3種類があります。今後、抗原性の異なる新しいインフルエンザウイルスが出現した場合には、パンデミックと呼ばれる世界的な大流行が起こることもあり得るとされ、その危険性が強調されています。1997年、香港での新型ウイルス(H5N1)の流行は水際でくい止められましたが、インフルエンザウイルスの過去の流行の周期からは、いつパンデミックが起こっても不思議ではないと言われています。現行のウイルスについても、抗原の連続変異(drift )と称されるウイルス表面タンパク質の小さな抗原変化はいつも起こっており、毎年のようにインフルエンザの流行が起こる原因となっています。このため、インフルエンザワクチンは毎年の流行株を予測して新たな流行に備えたものを用意する必要があります。インフルエンザワクチンによって獲得した抗体の有効な期間はおよそ5ヶ月程度とされており、この点からも毎年反復してワクチン接種を受けることが勧められています。

■ 症状

 インフルエンザは、他のウイルス性疾患と比較すると、潜伏期が24時間から48時間程度と短いことが特徴です。症状は、突然の高熱に始まり、咽頭痛、頭痛、関節痛、筋肉痛、倦怠感などの全身症状が目立ちます。2〜3日で解熱傾向になり、その頃から、鼻漏、咳嗽などの呼吸器症状が目立つようになります。完全な回復には1週間から2週間かかります。高齢者やリスクの高い方では、肺炎を併発して重症化し、死亡することもあります。30パーセント程度の小児では、いったん下がりかけた熱が再び上昇する2峰性の発熱が見られ、1週間程度発熱が続くこともめずらしくありません。このほかに小児では下肢の筋炎(腓腹筋炎)も特徴的で、痛みのために、尖足位となり、一時的に歩けなくなることがあります。

■ インフルエンザ脳症

 インフルエンザ流行期に、発熱して間もなく(48時間以内)突然に痙攀、意識障害などの中枢神経合併症をおこす乳幼児があり、インフルエンザ脳炎・脳症と呼ばれています。このような状態になると、約30%が死亡し、約10%が日常生活に支障がある重い後遺症を残す、大変悲惨で予後不良の疾患です。

 脳炎・脳症の前駆症状として幻視、幻覚、恐怖感の訴え、怒り、おびえ、感情失禁などがみられることがあります。これらの症状は側頭葉、大脳辺縁系の興奮性障害に相当するものとされており、脳炎・脳症の早期判断に有用なので、このような症状がみられた時には早めに集中治療が可能な施設への移送を考慮することをお勧めします。脳炎・脳症については、ジクロフェナクナトリウム(ボルタレン)およびメフェナム酸などの解熱剤の使用が予後を悪くするという研究結果があり、ことにジクロフェナクナトリウムの使用は明らかに致命率(死亡率)を上昇させるという報告があります。このため、インフルエンザ様疾患において、ボルタレンの使用は厳に慎むべきものとされています。

 小児科学会理事会の見解では、インフルエンザにおいて解熱剤をもし使用するならば、アセトアミノフェンを使用することが望ましいとされています。インフルエンザ脳炎・脳症に対しては、抗ウイルス剤、γグロブリン大量療法、メチルプレドニゾロンパルス療法、アンチトロンビン大量療法、脳低体温療法、血漿交換療法などの種々の治療法が試みられていますが、決定的なものはありません。抗ウイルス剤に関して言えば、アマンタジンは中枢神経系への移行が望めますが、ノイラミニダーゼ阻害薬は中枢神経系への移行が少ないとされています。もし、脳炎の発症機序にウイルスの直接侵襲があるとすれば、アマンタジンの方が理にかなっているかもしれません。アマンタジンはA型ウイルスにしか効果がありませんが、脳炎・脳症の多くがA型インフルエンザで起こるので、使用する意味はありそうです。一方で、痙攀を起こしたり、痙攀準備状態にある患児に中枢神経興奮作用のあるアマンタジンを使用することが、果たして良いことなのかということも考慮されねばなりません。

 いずれにしても発症してしまえば、予後不良を覚悟せねばならない疾患ですので、悲惨な脳炎・脳症を確実に防止するには、インフルエンザそのものが流行しないように、流行阻止の予防対策が確実に行われる必要があります。

■ インフルエンザ迅速診断キット

 小児のB型インフルエンザでは、嘔吐、腹痛など胃腸症状を伴うことが多いといわれています。しかし、共通する症状も多く、臨床症状のみで、A型、B型を正しく判断することは困難です。インフルエンザウイルスに対する抗ウイルス剤のうちアマンタジンは小児への適応も認められており、顆粒製剤もあることなどから、小児科領域で有用な薬剤です。しかし、アマンタジンはA型インフルエンザウイルスに対してのみ有効なので、インフルエンザウイルスの型を早期に知ることは治療方針をたてる上でも大切なことです。

 最近では、20分ほどの検査時間で、A型、B型の判別が可能な迅速診断キットが使われるようになり、正確な診断と治療方針の決定に大変有用です。

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[TEXT by 右田 琢生, 筑波記念病院小児科部長]