■胎児期の肝臓
このように複雑な機能を持つ肝臓ですが、もともと私達が生まれる前、すなわちお母さんのお腹にいる赤ちゃんの時の肝臓はどのような臓器だったのでしょうか。ここで、肝臓という臓器の生い立ちについて少しだけ触れてみましょう。
実は、お腹にいる赤ちゃんの時、いわゆる胎児期の肝臓は、体を循環する血液の血球成分を作る大切な造血臓器でした。具体的には“造血幹細胞”という、様々な過程を経ていろいろな種類の白血球、あるいは赤血球、血小板に変身できる、血球成分の根源となる万能の細胞が存在し、胎児の成長にあわせて活発に血球細胞を産生していたのです。
生後は、御存知のように造血の場は骨髄へ移行します。もう一つ大切なことは、お母さんと胎盤、そして赤ちゃんを結ぶ血液の流れ、母体胎盤胎児循環に直結して肝臓が存在していたことです。胎盤を介して母体から流れてきた酸素を豊富に含む血液は、まっ先に胎児の肝臓に流れ込み、これを受けながら造血機能を営む一方で、肝臓の細胞群は活発に増殖し、生後に担うべき機能の準備を開始しています。もちろん、出生後に最初の呼吸をした瞬間、この母体胎盤胎児循環は劇的な変化を生じ、その終止符を打ちます。そして、一人立ちした肝臓は体の成長に併せて、その構築を保ちながら再生し続け、ついには成人の重量にまで達するわけです。つまり、肝臓はもともとの造血臓器から、活発な再生の能力を有する多機能臓器に見事に変身するのです。
また、胎児は基本的には母親とは別の個体でありながら、正常な発育過程では母体から決して拒絶されることがないのは大変不思議なことです。以前からこの機序に胎児の肝臓が何らかの働きを担っているのではないかと考える意見もあります。
■肝臓の内科的疾患
では再び病気の話に移りましょう。 外科手術ではなく、食事療法やお薬などを中心とした内科治療の対象になる疾患にはどのようなものがあるのでしょうか。
太り過ぎによる脂肪肝、アルコールによる肝障害、ウイルスによる肝炎があります。 ウイルス肝炎の原因としては、A型、B型、C型などがあり、発症、経過も急性、慢性、激症型など様々です。これらの病気の中には進行すると、肝臓全体が硬くなり、肝臓細胞の機能が低下する肝硬変に移行する場合があります。肝細胞の癌は正常の肝臓に発生することは少なく、慢性肝炎あるいは肝硬変に合併することが多いのが特徴で、その治療は、内科・放射線科・外科を含めた多方面から集学的治療が検討されるのが最近の傾向です。また薬剤の副作用として、程度は様々ですが肝臓障害が起きることもあり、これも忘れてはいけません。
いずれの疾患も、重篤(じゅうとく)になると治療が大変困難になる為、注意が必要です。
■肝臓の外科的疾患
次に外科的手術の対象になりうる肝臓の疾患をあげてみましょう。 おおまかに申しますと、いわゆる“石 (結石)”と“腫瘍(しゅよう)”ということになります。
胆汁が流れる胆道系では、肝臓内あるいは肝臓外の胆管、そして胆汁の貯蔵庫である胆嚢を含めて結石あるいは腫瘍ができることがあります。
また、肝臓を原発とした肝臓細胞癌などの腫瘍の他に、大腸や直腸癌などが肝臓へ転移したことにより形成される転移性肝腫瘍も手術の対象となることがあります。
このほか、交通事故による肝臓の外傷も程度によっては手術を必要とすることがありますし、もともと内科の病気であっても病状が重篤になり様々の条件を満たせば、御存知のように肝臓移植という手術を考慮しなければならないこともあります。
■外科的肝臓疾患の症状
結石と腫瘍の症状に焦点を当ててみますと、 結石では発作性に、痛み・発熱・黄疸などでの激しい症状で発症することがありますが、発作を起こさない限り不定症状あるいは無症状であることがほとんどです。
腫瘍につきましても、特別な場所に発生したり、かなり進行した場合などを除いては一般的には無症状であり、原発性あるいは転移性を問わず腫瘍ができたからといって新たな症状をすぐに自覚することはないといえます。
従いまして、これらの疾患を見つける為には、積極的な検査が必要となります
[TEXT by 坂本俊樹, 筑波記念病院 外科]
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