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インフルエンザの脅威 PART2

タミフルはどういった場合に使うべきか

 タミフルはそういった非常時に使うべき薬品として保持しておく必要がありますが、新型ウイルスではない、現在流行中のインフルエンザに罹ったときに、普段は健康でリスクの無い人たちに使うべきかどうかは良く考えておく必要があります。私は、以下のような理由で、現在流行中のA型インフルエンザ(H3型)の場合には、高齢者の方や、心臓病や糖尿病などの基礎疾患があってリスクの高い方に限ってのみ使うべき薬であろうと思っています。

1)耐性化について
 ひとつは、タミフルの濫用は、ウイルスの耐性化を招きかねないということです。東大医科研の河岡義裕教授が2004年にランセットという医学雑誌に、小児では50人にタミフルを投与して9例に耐性株が生じた(18%)という報告をしておられます。従来、タミフルを発売しているロシュの臨床試験では耐性出現率を1.4%として、耐性ウイルスの出現が少ないとされていましたが、それに反して、小児では、耐性ウイルスの出現がかなり多そうです。そういった耐性ウイルスが万一新型ウイルスに変身してしまうと、新型ウイルス流行時の最後の切り札となるタミフルが効かない事態が起こりえます。耐性ウイルスを増やさないためには、リスクの低い患者へのタミフル濫用を慎むべきです。

2)タミフルを使うメリットは限定的
 リスクの高くない人々にとって、タミフルの有効性は、たかだか、熱の持続期間を1日短くするということだけです。しばしば、インフルエンザ脳症というこわい合併症があるので、タミフルを使いたいという声を聞きますが、インフルエンザ脳症はインフルエンザの発病から、非常に早い時点で痙攣などの症状が出始め、インフルエンザに罹ったとわかってタミフルを使い始めるよりも前に重症になってしまうことがしばしばです。タミフルを使ったのに、脳症を発症した例もあり、タミフル投与によってインフルエンザ脳症の発症を食い止めることは、完全にはできないということがほぼ定説になりつつあります。

3)タミフルの副作用
 三つ目は、決してタミフルが安全な薬とは言い切れないことがあります。タミフルの能書(薬剤の効能や副作用などを書いた薬剤に添付された文書)には、副作用がいくつかあげられています。この中に、7)精神・神経症状(頻度不明):精神・神経症状(意識障害、異常行動、譫妄、幻覚、妄想、痙攣等)があらわれることがあるので、異常が認められた場合には投与を中止し、観察を十分に行い、症状に応じて適切な処置を行うこと、と書かれています。
 最近、アメリカの食品医薬品局(FDA)が、タミフルを服用した日本人の14歳以下の子供12人が死亡していたとする報告書を公表しました。死亡原因としては、突然死が最も多く、次いで心肺停止、さらに意識障害、急性膵炎(すいえん)、肺炎、窒息などとされています。このほかに死亡には至らないものの、2階の窓から飛び降りたなどの異常行動を含む精神・神経症状32例も報告されています。
 精神・神経症状を伴うインフルエンザの合併症としてのインフルエンザ脳症があるため、この報告の全てがタミフルと因果関係があるかどうかは不明とされていますが、薬剤の能書にある通り、もともと、この薬剤には精神・神経症状という副作用があること、インフルエンザ脳症が初めて高熱をだしたというような低年齢の子ども達に多いのに対して、このFDAの報告で精神・神経症状を呈した子ども達は低年齢の子ども達だけではなく、中学生や大きな子ども達が含まれることが注目されます。
 タミフルを、ラットに高用量単回投与した結果、脳に蓄積したことが原因と見られる死亡が認められたという実験結果を製造メーカーのロシュが公表し、1歳未満の乳幼児に対するタミフル投与の安全性は未確認で、慎重に投与するようにとの通達が出されています。このことは、タミフルは特に幼若乳幼児では脳に蓄積する危険性があるということを表明しており、上に述べた精神・神経症状という副作用もその結果起こった可能性が否定できません。妊婦に対するタミフルの投与も、胎児の脳への蓄積の危険性を考えて、行なうべきではありません。
 今回のFDAの報告書の異常事例のほとんどすべては日本からの報告です(異常行動の1例がアメリカからの報告)。このことから、日本人の体質がタミフルと合わない点があるのではないかという議論もありますが、それよりも何よりも、全世界で生産販売されているタミフルの半分以上をここ数年間日本がなかば独占的に使っているという事態の方が、異常なことのように思われます。当然、副作用報告も日本から多数出ることになります。

 インフルエンザ、即タミフルという治療の構図は、高齢者や基礎疾患のあるリスクの高い方を除いては考え直す必要があるように思います。
 新型インフルエンザの大流行時に切り札となるタミフルを、濫用せず、大切に温存しておくことを真剣に考えておきたいものです。

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[TEXT by 右田 琢生, 筑波記念病院 副院長、小児科部長