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◎ピロリ菌と胃の病気

「日本は一流の経済国家だが、胃袋は三流だ」と言った欧米人がいました。なぜでしょう? 先進国の中で日本だけが、極めて高い胃癌の発生率を認めます。しかも、その患者さんの胃の中には、ヘリコバクター・ピロリ菌という特殊な細菌が感染している場合がとても多いのです。このピロリ菌という聞き慣れない細菌について、解説します。決して怖い病気ではなく、正しい知識を持ち、適切な治療を施行すれば、何の不安もありません。皆様のご理解に少しでもお役に立てばと思います。
  まず、なぜ「ヘリコバクター」という名前が付けられたかを紹介しましょう。今から約25年前、オーストラリアの研究者がはじめてこの菌を発見したときは、実は別の名前(キャンピロバクター・ピロリ)が付けられていました。その後、世界的にこの菌が有名となり、世界中の学者が集まって、細菌学的に勉強をする機会が設けられ、「ヘリコバクター・ピロリ」となったのです。その由来は菌の大事な体の一部である鞭毛が、あたかも「ヘリコプター」のプロペラのように見えたから、というユニークなものです。実際にこの菌はそのプロペラである鞭毛を盛んに動かして、胃の粘膜の上を遊走しています。


図1:電子顕微鏡で見た
ピロリ菌

1.菌の特徴
 大きさは0.5×1〜3マイクロメーター(1μmは0.001mm)ぐらいで、菌体は、らせん状にくねっています(図1)。
 そして、この菌の最大の特徴は、アンモニアを産生して自身の周囲をアルカリ性に保つということです。胃酸は強力な酸性であり、その酸のためにほとんどの生命体は胃の中では生きていくことができないわけですが、ピロリ菌はアンモニアを産生して胃酸を中和しながら棲息するという、きわめて個性的な細菌です。


2.感染経路
 正確には現在でもまだ不明です。推測されている感染経路としては「経口感染」が有力です。世界中のピロリ菌の感染率を比較してみると、発展途上国では90〜100%であるのに対して、先進諸国ではそろって低率です。つまり、上水道・下水道などの衛生環境が整備された国家ほど、保菌率が低くなります。このことが、「経口感染」説の有力な証拠です。

3.診断法
たくさんの診断法が開発されており、大きくわけて胃カメラを使用する検査と使用しない検査があります。
胃カメラを使用するおもな検査法としては
(A)迅速試験法、(B)病理診断法(図2)、(C)培養法、 (D)遺伝子検査法などがあります。
胃カメラを使用しない主な検査法としては
(A)血液検査、(B)尿検査。、(C)便検査、 (D)呼気試験(図3)などがあります。


図2:胃の粘膜の上に付着するピロリ菌
(光学顕微鏡で観察)


図3:呼気を回収するバッグと内服する検査薬剤
「ユービット」

4.病気との関連


図4:胃角にできた胃潰瘍

潰瘍(図4)はストレスや体質、生活習慣などの複数の病因によって発症します。ピロリ菌もその一つであると考えられています。
 潰瘍になったからといって、いきなり、日常生活上のストレスをなくすことはできません。急にその人の体質を変えるのもほぼ無理でしょう。生活習慣を改善することは可能でしょうが、なかなか長続きしないものです。しかし、ピロリ菌は薬物療法で完治します。ですから、潰瘍の原因のひとつであるピロリ菌感染症を治すことが、潰瘍の治癒に大きく貢献するわけです。

 実際、除菌に成功した患者さんでは、潰瘍が再発しにくくなることが証明されています。

 胃炎は、除菌療法が必要とであるという意見と、不要であるという意見が対立しているのが現状で、現在保険適応はありません。これからの研究が大切です。

 胃癌(図5)や悪性リンパ腫(図6)については、動物では実験的にピロリ菌を感染させると胃癌が発生したと報告されましたが、人間では実験はできませんから、今後の研究が期待されています。


図5A:幽門前庭部にできた早期胃癌(通常観察)


図5B:その色素観察の内視鏡写真

図6:胃の悪性リンパ腫
 

 確実に言えるのは、潰瘍の場合と同様で、ピロリ菌に感染している人のごく一部が残念ながら発ガンするかもしれないということで、感染者全員の話ではありません。やみくもに不安がらずに、きちんと治療や検査を受けていれば心配する必要は全く無いのです。

5.治療法
 ピロリ菌の治療法(除菌療法)は、1種類の胃薬と2種類の抗生物質を1週間服用するのが標準的です。副作用としては下痢が最も多く20-30%ぐらいあります。また、抗生剤に対してアレルギーが出る可能性もあるので要注意です。除菌率は約80%です。20%前後の方が不成功に終わることもご了解いただいてから、この治療を始める必要があります。

 そして、治療の約2月後に、ピロリ菌が完全に全滅できたかどうかを確認します。検査は説明したような様々な方法で行います。

 もっと詳しく知りたいという方や、自分がピロリ菌に感染しているか調べたいというご希望のある方は、当院消化器内科外来を受診ください。

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[TEXT by 池澤和人, 筑波記念病院 消化器内科部長]