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つくばハートセンター

治療

冠動脈インターベンションとは

冠動脈病変に対するカテーテル治療は現在、冠動脈インターベンションあるいはPCI(Percutaneous Coronary Intervention)と一般的に表現されますが、1977年にスイスのチューリッヒで最初に行われ、当時はPTCA(Percutaneous Transluminal Coronary Angioplasty: 経皮的冠動脈形成術)と呼ばれておりました。

手技は心臓カテーテル法に基づき、冠動脈の入り口にPTCA用カテーテルを挿入し、冠動脈用の細いガイドワイヤーを狭窄病変のある冠動脈に進め、そのワイヤーに沿って、しぼませたバルーン(風船)が先端部に装着されたバルーンカテーテルを目的とする狭窄病変まで進め、そこでバルーンを膨らませ狭窄を広げるという手法です。

現在でも基本的な方法は変わっておりませんが、PTCAが始められた頃は狭窄病変を拡張する手段としてバルーンしかなかったため、いくつかの問題点を抱えた治療法でした。もともと動脈硬化で内腔が狭窄した冠動脈はバルーンで一時的に拡張されても、バルーンをしぼませるとまた元のように戻る現象(リコイル)がしばしばあり、さらに狭窄部を広げることにより冠動脈壁の剥がれ(冠動脈解離)が発生し、完全に冠動脈が詰まることも少なくありませんでした。バルーン拡張後に完全に詰まることは急性冠閉塞と呼ばれ、これが解除されなければ急性心筋梗塞を発症し、場合によっては死に至る重大な問題でした。この他にもバルーンが広がらないような硬い、高度石灰化病変の存在などの問題があり、これらバルーン治療に伴う問題点を解決すべく、1980年代後半に様々な新しい冠動脈治療機器が開発されました。その中でも冠動脈にステントというメッシュ状の金属チューブを留置する手法は、それまでの大きな問題点であった急性冠閉塞に対し、剥がれた冠動脈壁を内側からステントが支えることから、これを激減させ、その後の経皮的冠動脈形成術の主流となり、現在に至っております。バルーンでは拡張できない石灰化病変にはロータブレータという、先端にダイヤモンドの粉を塗して高速回転で病変部を削る治療が登場し、その他にも経皮的冠動脈形成術の新たな治療法が導入され、バルーンだけの治療と名称の使い分けが必要になってきました。その後、従来のバルーンだけによる治療はPOBA(Plain Old Balloon Angioplasty)と呼ばれるようになりましたが、慣用的にPTCAがPOBAを意味することが多く、混同を避ける目的もあり、冠動脈に対するカテーテル治療の総称として、現在のPCI、冠動脈インターベンションが一般的になっております。

TRI(ティーアールアイ)とは

TRIとはTrans-radial Coronary Interventionの略語であり、日本語では経橈骨動脈アプローチによる冠動脈インターベンションを意味します。橈骨動脈というのは、よく手首の脈を測る際に使われる動脈のことです。

冠動脈インターベンションだけでなく、循環器以外の領域でも動脈を穿刺するカテーテル検査や治療のほとんどが経大腿動脈アプローチ、すなわち足の付け根の動脈から行うことが基本です。動脈を穿刺するにあたり、体表面から触知できる動脈として大腿動脈は最も太く、穿刺が容易であり、造影や治療の目的とする臓器までのルートや距離などの技術的要因が最も適している、言い換えるとやり易いというのが大きな理由です。歴史的にも冠動脈インターベンションを含むほとんどの動脈穿刺を必要とするカテーテル検査、治療が大腿動脈から開始されております。しかし、この大腿動脈からのアプローチは、現在でも出血性合併症という大きな問題を抱えております。動脈を穿刺した場合、術後は強く圧迫して止血しなければなりませんが、特に太いカテーテルを用いたり、基礎疾患が血栓を防がなければならない病気で、普段からワーファリンやアスピリンといった、血をさらさらする薬(抗凝固薬、抗血小板薬)を使っている場合などはそのリスクは高くなります。穿刺部からの出血と言っても、多くは問題のない小さな内出血程度のものですが、時に非常に大きな血の塊(血腫)を形成して輸血が必要になったり、穿刺の位置が高く、出血が後腹膜まで及ぶような場合には時に命にかかわる状態となり得ます。

冠動脈インターベンションを受けられる患者様はほとんどがアスピリンを服用しており、特に前述の冠動脈ステントが導入された当初、人体にとって異物であり血栓を形成しやすい金属性のステントの血栓予防に、アスピリンに加え、ワーファリンの併用が不可欠であると考えられており、出血性合併症はバルーンだけの時代よりもむしろ多く認めるようになりました。当時のPTCAでは全体の3割程度になんらかの出血性合併症を認めたという報告もあります。

医療器具も現在のように洗練されたものではなく、外径が大きいものであったことから、その通り道となるガイディングカテーテルは8フレンチ(2.66mm)のものが主流であり、この太いカテーテルを用いることも出血性合併症にとって不利な要因でした。そのような環境の下で経橈骨動脈アプローチによるPCI(TRI)は、オランダのFerdinand Kiemeneij(キムニーと呼びます)という医師により1992年に世界で初めて行われました。日本には1995年に湘南鎌倉総合病院の齋藤滋先生や倉敷中央病院の光藤和明先生らによって導入されております。その背景として、PCIの基本であるバルーンカテーテルが6フレンチ(2.0mm)のガイディングカテーテルで施行可能なよう、細径化されたことがTRI普及に大きく貢献しております。8フレンチと6フレンチではわずか0.67mmの径の差ですが、大腿動脈では問題のない8フレンチでも、一般的に橈骨動脈では太すぎて入らないことが多く、6フレンチであれば、ほとんどの患者様に橈骨動脈から挿入可能です。TRIが導入された1990年代はじめ頃には、ステントを留置するために、既存のステントデリバリーシステムでは太すぎて6フレンチに入らないため、術者が手作業で、より細い冠動脈用のバルーンカテーテルに装着し直して冠動脈に挿入しておりました。他にも技術上の制約が少なくなかったことから、冠動脈インターベンション領域のオピニオンリーダーと呼ばれるような医師の多くは複雑な病変を治療する機会が多いこともあり、大腿動脈からのPCIを好んで行っておりました。

現在では、多くのPCI用医療機器が6フレンチ対応となっており、それに伴い、このTRIは世界中で普及し、日本では冠動脈インターベンション全体のおよそ6割から7割程度がこのTRIで行われているものと推測されます。したがって既に限られた医師しかできない手法ではなくなっておりますが、依然として難しい病変の治療は大腿動脈から行う施設が大半であります。

TRIは齋藤滋先生が尽力され、特にアジア諸国では多くの国々で冠動脈インターベンションの主たる手法となっております。TRIには大きな利点がいくつかあります。前述の通り、出血性合併症が少ないというのは疑いのない大きな利点ですが、その他にも術後の安静を軽減できるという利点があります。足からカテーテルをやった場合、カテーテルの太さや止血の方法にもよりますが、数時間から場合によっては一昼夜の絶対安静を強いることがあります。特に腰痛をお持ちの方は辛く、さらに高齢者では不穏状態になることもあります。

冠動脈インターベンションのアプローチ部位として、もう一つ、上腕動脈アプローチ、すなわち肘の動脈を穿刺して行う方法もありますが、この方法ではやはり血腫の形成が認められる可能性があり、その場合、正中神経という太い神経が上腕動脈の近くを通っていることから、術後に正中神経麻痺を認めることがあります。TRIでは橈骨動脈の近傍に大きな神経はないので、そういった神経麻痺のリスクもありません。このように素晴らしい利点ばかりのTRIですが、技術的に少し工夫しないと様々な病変や状況に対応するのが難しい、言い換えると面倒な面があります。面倒な状況を面倒と思わなくなるまでやり続けないと、難しい病変や患者さんに使うのを躊躇してしまいます。

術者として最大の目標は治療を成功させることであり、どこからアプローチするかは優先順位として1番ではありません。手技成功のために術者として一番やりやすい方法を選ぶのは当然です。したがって大腿動脈からのアプローチを否定するものでは全くありませんが、同じ結果が得られるのであれば、TRIのほうがより患者様に優しい手法であり、今後もどのような複雑病変、重症患者様にもTRIで治療を行うというスタンスは続けていく所存です。

Wave 3による冠動脈カテーテル治療

TRIがまだ、難易度の高い病変治療で避けられる傾向がある理由の一つとして、ガイディングカテーテルによるバックアップサポートが得にくいということが挙げられます。冠動脈内にバルーンやステントを持ち込むには目的とする冠動脈に屈曲や石灰化があると、その抵抗により、持ち込めないことがあります。そのために、その通り道であるガイディングカテーテルは“支え”としての働きが求められます。それがバックアップサポートです。一般的にTRIでは、特に右TRIで右冠動脈の治療をする際に、解剖学的な理由から通常のガイディングカテーテルではバックアップサポートが弱くなる傾向があります。

右冠動脈の造影所見

右冠動脈は走行のバリエーションが多く、特に右の図のような屈曲した右冠動脈ではガイディングカテーテルのバックアップサポートがないと治療がうまくいきません。

センター長の我妻は、1996年にTRIを開始した際に、通常のガイディングカテーテルではこのバックアップサポートが十分でないことによるやり難さを実感し、新しい形状のガイディングカテーテルの開発に着手しました。その結果、1998年に臨床使用可能となった特殊形状のガイディングカテーテルがWave 3(ウェーブスリー)です。

右冠動脈用ガイディングカテーテル Wave 3

通常のガイディングカテーテルは先端の形状として2次元のカーブが付けられているものがほとんどですが、Wave 3はユニークな3次元カーブが先端に付けられております。冠動脈の形状として、特に右冠動脈は高度な屈曲を示すことが多いことから、このWave 3は右冠動脈のPCI専用のガイディングカテーテルとして、現在でもほとんどの右冠動脈治療に用いております。特殊形状のカテーテルのため、置いていない施設が多いことから、他施設でカテーテル治療をする際には必ず持参している、我々の治療には必要不可欠なガイディングカテーテルであります。

慢性閉塞性動脈硬化症(ASO)のカテーテル治療

慢性閉塞性動脈硬化症(ASO)は、難しい病名ですが、狭心症や心筋梗塞などと同様に、動脈硬化が原因となることの多い病気で、足の動脈が詰まってくる病気です。長く歩くと足が痛んだりする場合、整形外科を受診することが多いと思われますが、そういった患者様の中にはASOの方もいらっしゃいます。ABIという足の動脈圧と手の動脈圧の差をみる簡易の検査で疑わしいかどうかはわかります。糖尿病の方やヘビースモーカーなど、動脈硬化の危険因子を持っている患者様が多く、進行すると足が壊死を起こし、最悪の場合、切断を余儀なくされる病気です。

慢性閉塞性動脈硬化症(ASO)のカテーテル治療

特に糖尿病を基礎疾患とした血液透析を受けられている患者様では、心臓と同様に足も動脈硬化が進展しやすく、高度な石灰化を認めることが多いのが特徴です。

この病気は従来、放射線科や血管外科が中心となって治療を行ってきました。いっぽうで、心臓カテーテルの技術はこのASO治療に応用され、この10年位で循環器内科医が治療を行うケースが増えております。足の動脈は進行しても、側副血行、いわゆるバイパス血管が発達して症状が強く出ないことが少なくありません。したがって病院を受診するような足の痛みが出る頃には、既にかなり進行して、何センチも完全に詰まっていることがあります。心臓(冠動脈)では、慢性完全閉塞病変の治療は最も難しい治療の代表です。足の場合も同様ですが、冠動脈で培った慢性完全閉塞病変の治療技術は足の治療にも大いに生かせ、我々はこのASOの治療も積極的に行っております。

薬物治療の重要性

動脈硬化という病態自体が命に直接かかわるものではありませんが、それが引き金になって前述の狭心症や心筋梗塞、慢性閉塞性動脈硬化症、脳血管であれば脳梗塞が発症し、これらの病気が生命予後に大きく影響することから動脈硬化の予防は極めて重要です。我々の施設を受診する患者様は既に前述の病気を認めている方が多いわけですが、カテーテル治療でうまく狭窄病変を治療できても、動脈硬化は生涯進むものであり、その後の生活習慣の改善、薬物治療(内科的治療)の重要性は認識しなければなりません。一度心筋梗塞で助かっても、その後また発症して命を亡くすケースもあります。

狭心症や心筋梗塞になっても、これを繰り返さない、いわゆる二次予防(一次予防は症状の出るような病気を発症する前の予防)の観点から、糖尿病、脂質異常症(高脂血症)などの危険因子があれば、その厳格な管理が必要となってきます。

また、現在の冠動脈インターベンション治療において主流となっている薬物溶出ステント(DES: Drug Eluting Stent)は、その再狭窄(治療したステント留置部が、再度細くなる現象)予防効果が優れている反面、遅発性ステント血栓症という大きな問題があり、現在でも解決されておりません。通常のステント治療では20%程度認める再狭窄が大きな問題でしたが、術後2-3か月も経過すれば、ステント留置部に血栓ができて詰まるようなことはほとんどありませんでした。2004年に国内で臨床導入されたDESは、ステントの表面にコーティングされた薬剤(免疫抑制剤や抗がん剤)が再狭窄の要因となる血管平滑筋の増生を防ぐことから、劇的に再狭窄を改善させました。しかしその一方で、術後1年以上経過したケースでもステントに血栓を認め、急性心筋梗塞を発症することがあり、場合によっては命にかかわる事態となり得ます。

ステントは金属であり、生体にとって異物であることから血管の内側に露出したままだと血栓ができる可能性がずっと続くことになります。したがって内皮細胞という血管の内腔を取り巻く細胞によりステント表面が覆われることがステント血栓症を防ぐために大きな要因となりますが、DESはその強力な細胞増生抑制効果により、長期間にわたりステントが内皮化しないという問題があります。頻度は高いものではありませんが、ステント血栓症を発症した場合、前述の通り、命にかかわる場合もあることから、術後は血栓を防ぐ薬である抗血小板剤の服用を守らなければなりません。この抗血小板剤を含め、糖尿病、脂質異常症、高血圧といった、生活習慣病の管理のための薬物療法は極めて重要です。